モーケン族のこと
先週のCBSニュースで、さきのスマトラ沖大地震を、先祖代々から伝わる伝説によって難を逃れたモーケン族という人たちのことが取り上げられていた。
島にいた彼らは、水がさっとはるか沖のほうへ引いていくのを見て、言い伝えどおりに山の方に向かって逃げた。観光客を連れて。
海にいた彼らは、出来るだけ沖へと漕ぎ出した。それは沖へと泳ぐイルカと同じ行動だった。
彼らの言語には、「欲しい」という単語がないそうだ。時間の概念もなく、年齢を聞いても答えられない。「いつ」という単語もない。
ここで俺が思い出したのは、セント・キルダに住んでいた人たちの生き方だ。かたくなに先祖代々伝わる生き方を踏襲し、ただ生き続ける。何かを欲することもなく、時間に追われることもなく。
俺にもそんな生き方が出来る時が来ないだろうか。そのためには社会的自由を手に入れなくてはならない。そのためには、今がんばるしかないのだ。そうして、時間に追われ、お金を欲しながら生きていく。そこにある矛盾は、この俺の胸の中に飲み込んでおく。
正直言って、今、俺はとても苦しい。胸に飲み込んでいるものが口から飛び出しそうだ。自分が目指していく先にあるものは間違いなく幸せであるはずなのだが、そこまでの道で俺に待っているのは次々に現れる今まで経験したことのないような苦しみだ。
でも、俺は負けない。
俺に与えられた目の前にあるこの茨の道を超えていった先にあるものを、俺はただひたすら目指していく。
そう、男の子にはやせ我慢がよく似合う。俺もその男の子の中の一人だ。
英国セント・キルダ島の何も持たない生き方―自分を幸せだと思う哲学
- 作者: 井形慶子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/11
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