水鏡綺譚のこと

ikami2005-05-01

 久しぶりにいい気分で読了できるものに出会ったので紹介したい。
 
 『水鏡綺譚』 近藤ようこ

 未完の連載が、12年ぶりに描き下ろし52ページを加えて完結、単行本化された。狼(おおかみ)に育てられ、術を操る少年ワタルは、夜盗にさらわれた長者の娘、鏡(かがみ)子を助ける。2人が旅の先々で出合う怪異が、作者独特の静かで抑制の効いた筆致でつづられ、人間の愚かさや悲しみを伝えて説話文学のような奥行きがある。鏡子の記憶が戻る最終章の美しさにはほっとするファンも多いだろう。(青林工芸舎、1600円)

 読んでいて、とても懐かしい感じがするのは、自分の少年時代を思い出すからだろうか。それとも少年時代に読んでいたマンガを思い返すからだろうか。
 
 ワタルと鏡子の旅は、鏡子の家を探し出した時に終わる。その時にワタルは鏡子と別れなくてはならない。いつか終わる旅、でも終わって欲しくない旅。いつまでもこうしていられたら。心の中でそう思いつつも、ワタルは鏡子と、鏡子の家を探す旅を続ける。
 
 最終話では、この話が始まった時から運命付けられた別れがやってくる。そこでもワタルは、「またいつか、会おう」と言って去っていく。
 
 そう、男の子はいつだってヤセ我慢なのだ。俺の人生もヤセ我慢の積み重ねの歴史である。
 
 一方の鏡子の方はと言うと、この頃の女の子は男の子よりも既に一歩大人に近づいている。だから、ずっと落ち着いている。ワタルの「またいつか、会おう」は、そんな少し大人な鏡子に、「自分が大人になった時にまた会おう」って、そんな意味の言葉だったのかもしれない。
 
 

水鏡綺譚

水鏡綺譚

 
 近藤よう子の作品は何本も読んでいるのだが、これが一番いいと思う。本人も楽しく描けたようだし、そいうのが一番いいのかもしれないな。